目次
第八章
狗奴国系王統最後の光芒
終わりに
紙と墨で歴史を伝える時代が到来したのだ。天鈿女以来、永い日本の歴史を誦と舞で伝承してきた猿女君の職掌が必要とされない時代になっていた。稗田阿禮は、「古記録を見ながら古語で節をつけ、繰り返し朗読」したのではない。猿女君が伝えてきた歴史の記憶を「誦習」したのだ。稗田阿禮を最後の光芒として、猿女君は歴史から静かに姿を消すことになるはずであったが、猿女君は秦氏の援助を受け残った。神楽の舞、謡、雅楽の演奏、能は、神だけでなく庶民を楽しませる演芸として、今に伝わる。天鈿女は芸能の祖として今も尊崇され続けている。
猿女君が誦で伝えた古代日本の王統の交代劇は物語る。邪馬台国王統と狗奴国王統という二つの異なった王統が時間の流れの中で相克し、交代したように見える。邪馬台国王統の卑弥呼は伊都国を、狗奴国王統の卑弥弓呼は奴国をそれぞれ本貫としていた。伊都国も奴国も倭奴国(ゐなこく)が内部分裂してうまれた国である。したがって、邪馬台国王統と狗奴国王統は同根であり、その起源は「漢委奴國王」金印にあらわされた倭奴国に収斂するのである。
本稿が、理系学者の宮﨑照雄が見いだした、日本古代史の実像である。